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暗い部屋の中に明かりが灯る。
帰ってきたサリはカバンをどかっと床に置き、その場にへたり込んだ。
入念に時間をかけて化粧した顔が歪み、彼女はうわーんと子どものように泣いた。
大粒の涙が頬を伝う。
俺はそれを眺めている。
どうやら彼女は高梨にフラれたらしい。
「わたしっていつもこうなんだよね」
自虐的に笑いながらサリは俺の前に来て、泣き顔を見せる。
俺は必死に体を動かした。電池が切れかけているせいか、動きにキレがない。
必死に踊ろうとするのだが、彼女を満足させられるようなものを見せられない。
「勝手に自分で舞い上がってさ、バカみたい」
両手で顔を覆いながら涙を流し続けるサリ。
なんて無様な踊りなんだ。
俺は自分が情けなく思えた。
「好きだったのに。本当にさ、好きだったんだから」
嗚咽を漏らし、顔はぐちゃぐちゃで目は真っ赤になっている。
ティッシュを取って涙を拭うが、すぐに泣き始めてもう止まらない。
その光景に見覚えがあった。
猫だったころの記憶だ。まだ幼かったサリがわんわんと泣いていた姿。
サリの家の庭には花壇があり、いろいろな花を植えていたのだが、そこに彼女が種をまいて大切にひまわりの花を育てていたのを俺は知っている。
毎日水をやって少しずつ芽が出てきて、サリは目を輝かせてその花の経過を見守っていた。
ある初夏の日の夕暮れ、俺はいつものように彼女の家に侵入して日陰を探していた。
花壇には小さな緑色の芽が出ていて、それが彼女が育てていた花なのだということを知っていた俺は、イタズラ心からか花壇に入ってその芽をかじった。
腹が減っていたわけでもなかったし、美味そうに思えたわけでもなかったのだが、なんとなくサリが笑う気がしたから。
俺のその行動は家主に見つかってしまい、コラ!と一喝された。
でも、どうせそれも一瞬のことで、すぐに許されるのだろうと甘く考えていたが、怒鳴り声を聞きつけてやってきたサリは噛みちぎられたひまわりの芽を見て、声を上げて泣いたのだった。
俺は、まさか彼女が泣くとは思わず、驚いた様子でその光景を見ていた。
サリは花壇の前にへたり込み、最愛の人が亡くなったかのように顔を歪ませて涙を流した。
俺は彼女の泣き顔を見て、居ても立っても居られなくなり、すぐにその場から逃げるように立ち去った。
そして、そのまま車に轢かれて死んだのだ。
今の彼女があのときの少女と重なる。
大事に育てていたひまわりは、俺がかじったせいで死んでしまった。
そのあと、君になんの償いもできないまま俺は命を落とし、こうしてフラワーロックになった。
そうか。
神さまは意地が悪いな。
二十五年前、俺が殺したあのひまわりの生まれ変わりが俺なのか。
花ひらくことができなかったあのひまわりの代わりに、おもちゃの花として俺に使命を託したわけだ。
なんてひねくれた神さまだよ。
でも、俺がしなければいけないことがよくわかった。
あのとき、黄色い花が咲いていたら、サリは必ず笑顔を見せていたことだろう。満面の笑みを。
それを俺が踏みにじった。
生まれ変わった今、ようやくその罪を償うチャンスが巡ってきた。
サリに泣き顔じゃなく、笑顔を出させることが俺の使命なんじゃないか。
俺の動きに笑みを浮かべて楽しそうに話しかけてくる君が見たい。君の声が聞きたい。
男なんて腐るほどいる。
高梨のことなんて忘れて、また別の男を探せばいい。だから、今は笑ってくれ。
笑ってくれよ、頼むから。
もう、泣かないでくれよ。
この命が尽きるまで、俺は君のためにいつまでも必死に踊り続けるから。
だから、もう泣かないでくれよ……。

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