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男が車内販売の女の人を呼びとめる。でもこの男、他の女性のことも内心品定めしているのかもしれないと考えたら、ちょっとイラッとした。
「――アイスですか」
「えっ知らないですか、『シンカンセンスゴクカタイアイス』
そのネーミングは聞いたことがなくて、ツボに入った少女は思わず声を上げて笑ってしまった。
「めちゃくちゃ硬いんですよ、ほら全然スプーンが刺さらない」
プラスチックのスプーンが、凍り過ぎたアイスとカツカツ音を立てる。
「あれですか、『このアイスと同じように、俺が君の冷え切った心を溶かして甘くなったところを食べてあげる』みたいな」
「いや僕そこまでひねくれてませんよ」
「でも、新幹線でアイスって」
「別にいいじゃないですか、誰が何を好きでも」
少し苛ついた男の言葉が、他のことにも当てはまる、そんな気がして少女は口をつぐんだ。
正直、さっきの男の観念で理解できない点がまあまああった。というかほとんどわかっていない。それを、人それぞれの「好き」を無意識のうちに心の中で否定、拒絶している自分が何だか急に惨めに思えてきた。
「好き」って一体何なんですかね。
「……すみませんでした」
「何か、らしくないですね」
「会ってまだ合計数時間しか経ってない私の何がわかるんですか。あっアイス一口下さい」
「嫌ですよ、間接キスされたわいせつ罪だなんて言うんじゃないですか?」
「流石にそんなことしませんよ!」
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