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巫女装束とチャイナドレス事件
日曜日の境内は、いつものとおり人が多かった。この源神社は、横浜・元町のちょっとした名所。観光客はもちろん、地元の人もたくさん訪れる。参拝する人、散歩する人、お守りやお札を求める人……そんな人々でにぎわう、本当にいつもどおりの日曜日だった。
ただ一つ、境内のど真ん中で、青いチャイナドレスを着た少女が動き回っていることを除けば。
雫と同世代──たぶん17、8歳くらいの少女だった。近くに横浜中華街があるのでチャイナドレスを見かけること自体は珍しくないが、この少女のように、拳法の形らしき動きをひたすら続ける人は見たことがない。しかも、境内で。パンチにキック、ジャンプ、果ては頭突きまで。どの動きにもキレがあって、惚れ惚れしそうにはなる。
でも、困る。
はっきり言えば迷惑だ。
参拝者も、距離を置きつつ当惑の眼差しを送っている。
「彼女に注意してきてください、壮馬さん」
授与所──御朱印を受け付けたり、お守りやお札を扱ったりする場所──で番をする俺に、傍らから雫が声をかけてきた。反射的に首を横に振る。
「俺は体格がいいから、こわがらせちゃいますよ。雫さんの方が適任だと思います」
「わたしだと戦闘になりかねません」
「戦闘?」
雫はチャイナドレス少女に、険しい眼差しを向けて頷く。
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