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「もしもし」
〈お友だちと飲んでいるところ、申し訳ありません。今日は何時ころお帰りかと思いまして〉
「たぶん遅くなります」
〈わかりました。メールでお訊ねしようと思ったのですが、琴子さんが『私の勘が電話をするべきだと言っている』と言うので、ご迷惑かもと思いつつかけてしまいました〉
琴子さんというのは、俺の兄貴の妻──義姉に当たる人だ。やけに勘が鋭くて、ちょくちょく妙なことを言い出す。
俺たちの会話が聞こえたらしく、藍子ちゃんが央輔に訊ねる。
「壮馬さんと雫ちゃんはメールで連絡を取ってるの? LINEじゃないの?」
「壮馬は未だ、雫ちゃんとLINEのアカウントを交換してないんだ」
「私ですら、雫ちゃんと友だち登録してるのに。まあ、メールでも連絡は取れるけど」
目を丸くする藍子ちゃんに苦笑しつつ、俺は雫に言った。
「先に寝ててくださいね。じゃあ、そういうことで──」
〈女性がいるのですか?〉
居酒屋から冷蔵庫の中に瞬間移動したんじゃないかと錯覚を抱きそうになるほどの、おそろしく冷え冷えとした声がスマホから飛んできた。
〈女性の声がしました。お友だちというのは女性なのですか?〉
「女性ですけど……藍子ちゃんですよ。央輔も一緒です」
〈──そうでしたか。ごゆっくり〉
いま「そうでしたか」という前に、安心したような息をつかなかったか? 混乱しているうちに、電話は切られた。
央輔と藍子ちゃんが、そろって頷く。
「やきもちだね」
「やきもちですね」
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