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雫ちゃんに告らせたい
「雫ちゃんに告らせよう」
央輔が言ったのは、石川町駅の傍にある、行きつけの飲み屋でだった。今日はお互い時間があるので、夕方から飲んでいる。央輔のカノジョ、藍子ちゃんも一緒だ。俺たち三人以外にまだ客はいない。
「なんだよ、唐突に?」
「唐突じゃない、ずっと考えてたんだ。昭和のラブコメじゃあるまいし、一向に進まない壮馬と雫ちゃんの関係をどうしたら変えられるのかってね」
「変えようがないのは、お前だってわかってるだろう」
長くなるので詳細は割愛するが、いろいろあって俺は、源神社で一緒に奉務する巫女──久遠雫に告白できなくなった状態が続いている。
央輔が首を横に振る。
「壮馬が告白できないのは仕方がない。だから発想を変えるんだ。雫ちゃんに壮馬に惚れさせて、告白させればいい」
「さすがね、央輔さん」
藍子ちゃんが拍手する。レモンサワーをまだ二、三口しか飲んでいないのに、既にほっぺたが赤い。
「俺に惚れるわけないだろう、あんな、超ぜ……かわいい子が」
黒真珠を思わせる大きな瞳、新雪のように白い肌、身長150センチ前後しかないとは思えないほど凜と伸びた背筋……雫は「この世にこんなきれいな子がいるのか」と思うほどの超絶美少女なのだ(央輔たちにそう言うのは恥ずかしいので、咄嗟に「かわいい子」に言い換えた)。
「でも壮馬の話を聞いてるかぎり、脈がありそうじゃないか」
「ないない。あの子にとって俺は、年上の教え子でしか──」
言ってる最中、俺のスマホが鳴った。雫から電話がかかってきた。
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