あわれ

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電車の中で次の駅への到着を告げるアナウンスが鳴る。 向かい側に座っていた大学生らしき集団が慌ててひらくドアへ駆け寄る。 見えない紐で引かれるようにそのあとについて行く。 ドアが閉まり、音を立てて電車が発車する。 風になびいた自分の髪の毛が、少し汗ばんだ肌にまとわりついて嫌になる。 見たことのない駅で、標識に沿って地上に続く階段を駆け上がる。 もう一度吸う外の空気は、さっきよりもどこか清々しかった。 上司への連絡も忘れて、そのまままっすぐに歩き出す。 さっき電車の中で見た、楽しそうに笑う学生たちがまた目の前を歩いているのに気づく。 その姿は数年前の自分を思い出させた。 「うわぁ、すごい!」 集団から突然上がった歓声に驚きながら、彼らの指差す方向に目をやる。 その先には、満開の桜が咲いていた。
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