あわれ

4/7
前へ
/7ページ
次へ
「またあとで授業終わったら行こうよ。」 「そうしよ。あっという間に満開になったね。」 楽しそうに軽い足取りで、大学生たちはどんどん進んで行く。 気づいたら方向を変えて、その桜の咲き乱れる川沿いへと足を向けていた。 職場の最寄駅で見た空は、どんよりとしていて息がつまるような空気だったのに、まるで季節が変わったかのように、ここの空気は暖かくて心地よい。 花開いた桜の木の下のベンチに腰を下ろす。 川の水面に反射する太陽の光に目を細める。 こんな風にゆったりと時間が流れたのはいつぶりだろう。 一瞬、脳裏に会社からの連絡が来ているのではないかと、嫌な光景が浮かぶ。 手にじわりと汗をかいたその時、一匹の犬が足元によって来た。 「わ…。どうしたんだろ。」 ベンチの周りを一生懸命嗅ぎ回っている。 「あーすみません。」 そう言って、ゆっくりと足音が近づいて来た。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加