あわれ

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「そんな風に、思えるものですか?」 「そうね…。私も最初は、あとどれくらい悲しみが続くのだろうと本当に出口の見えないトンネルを延々と歩いているかのように、絶望的な気持ちだったけれど、ある日ね。突然、そうやって嘆いてる自分が嫌になった日が訪れたのよ。」 (私の今日みたいに、なんて…仕事サボってるのと同じにしちゃダメだよね。) 「なんとなく、そうやって嘆いてばかりいて、目の前にある美しいものや楽しいものから目を背けて、なんだか自分が失礼に思えちゃってね。だって、あの人はもうそう言ったものを楽しむことさえできないのに、私は何をやっているんだろうって。自分だって、あと何年いられるかわからないのに、せめて残された数年、感謝をしながら生きるのが、あの人にとっても、幸せなんじゃないかと思えてね。」 「素敵ですね。そういう考え方。私だったら、そういうことにも気づけずに、ただただ鬱々と過ごしちゃいそうです。」 「あら、でもあなたはもう一歩を踏み出してるんじゃないのかしら。」 「え?」 「今日、ここにいることが、あなたにとって毎日に変化をもたらすきっかけになっているんじゃない?」 「でも、私はただ仕事を連絡もせずに…」 私が言い切る前に、彼女が切り出す。
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