あわれ

1/7
前へ
/7ページ
次へ
地下鉄の階段を駆け上がり、外の空気に触れる。 今朝は雨が降っていたから、傘を手に歩く人が多い。 その傘の持ち方にすらいちいち文句をつけたくなるような鬱屈とした朝だった。 あと数分歩けば、いつものように挨拶をして、いつものように仕事を始める、いつものビルにたどり着く。 それなのに、その一歩が踏み出せずに階段の脇に立ったまま動けない。 誰一人私を気にすることもなく、みんな海の中で泳ぐ魚のように、スイスイと進んで行く。 どうして私にはそれができないんだろう。 考えるほどに情けなくなる。 一瞬太陽の光が差し込み、その眩しさに圧倒される。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加