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セーラー服を着ていることから学生だと推測出来るが、その美しい容姿はアヤトでも息を呑む程だった。
しかし、身に纏う殺気は初めて見た時よりも鋭く、表情は憔悴しきっていた。
「あの…」
アヤトが問い掛けるより早く、リングが少女のデータを映し出した。
『光輝の翼アルバトロス』
天上世界『光輝界』の戦士であるユナは、罪を犯し、『罪業』となったかつての戦友達を流刑地へ送る途中、反乱に合い、自らの力の源である12本の剣を奪われてしまった。
命こそ取り止めたものの、地上世界へ落とされたユナはその身を人間『霧島結奈』へと変え、力を取り戻す為に『罪業』と化した戦友達と戦うのだった。
聖剣アルバトロスは、ユナに唯一残された聖剣であり、彼女に戦士の力を僅かにだが戻す事が出来るのだ。
データに目を通し、アヤトはもう一度少女を眺めた。
手に持っている剣がアルバトロスで、この少女がユナなのだろう。
正確には、人間の姿なので霧島結奈なのだが。
データによれば見た目こそアヤトより年下で可愛らしいが、人類より高位の存在であるらしい。
果たしてこちらの意図は通じるのだろうか。
考えあぐねていると、結奈が先に口を開いた。
「アマキリ・アヤト…だな?」
「えっ…はい」
結奈は切っ先をアヤトへ突き付けた。
「私と戦え」
…第一声がそれですか。
そう言いたかったが、アヤトは口に出さなかった。
結奈の目は、完全に殺気立っている。
下手な台詞を吐こうものなら、問答無用で真っ二つにされてしまうだろう。
「ちょっと落ち着いて。僕らが戦う理由なんて無いじゃないの?」
アヤトの返答に、結奈は怒りを滲ませて叫んだ。
「ふざけるなッ!!貴様に無くても私にはある!この身を震わす恐怖と共に叩き斬ってくれるわ!」
そう叫ぶなり、結奈はアヤトへ斬り掛かった。
『アヤト!』
間一髪、アマネが飛び出し球状の体で刃を受け流した。
「ちょっと意味が解らないよ!何がそんなに怖いのさ!?」
「貴様馬鹿か!?存在が消えるんだぞ!?怖いに決まっているだろ!」
結奈の言葉に、アヤトは違和感を覚えた。
存在が消える=死、と言う意味では無いらしい。
アヤトだって死ぬのは怖い。だが、心の何処かでは半信半疑であるのに比べ、結奈の怯え方は異常だった。
「私には戦士であったという記憶しかない!残りの聖剣も、戦友達のことも、何一つ覚えていない!」
結奈が剣を振り回す。
しかしその度、アマネが刃へ先回りして直撃を防いだ。
「私は空っぽだ…!こんな状態では死んでも死にきれん!せめて、貴様を斬ってから死んでやる!」
結奈は自棄になっているらしい。
防がれているにも関わらず、何度も斬り掛かってくる。
だが、結奈の苦しみをアヤトは理解出来なかった。
アヤトには、今までの記憶が全てある。
正義の味方を目指した理由も、姉と共に戦った日々も、倒した悪も全て。
自分が消えるなんて思ってもいないし、空っぽであるとも思わない。
『アヤト!このままじゃ埒が明かないわ!』
確かにその通りだった。
このまま無意味な攻防を続けても、時間と体力の無駄だ。
命まで奪う必要はない。
ただちょっとだけ、結奈に大人しくなって貰えればいいのだ。
「仕方ないね…姉さん!」
アマネは結奈を弾き飛ばして、アヤトの掌に収まった。
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