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睦は立ち上がり、自分の身体を確認した。
特に変わった所は無い。
記憶が欠如している以外には、全て平常通りだった。
「兄ちゃんたち、何を話してるんだい?」
アヤトと睦の間に割り込むように、少年が話し掛けてきた。
まだ10歳ぐらいだろうか。
首には緑色のスカーフが巻かれ、快活そうな雰囲気を纏っている。
「君は?」
「おいらはコガラスマル。こう見えて忍者なんだぜ」
確かに忍者らしいと言えばらしい。
しかし、まだ子どもだ。まさか、彼も自分達と同じように連れてこられたのだろうか。
「兄ちゃん達はまだ話しやすそうだね。あっちの方は全然でさ。おいらキンチョーしちゃったよ」
全く緊張感のない様子で、コガラスマルが言った。
どうやら、黒ずくめの男と大剣の少女のことを言っているらしい。
確かにあの二人からは近寄りがたいオーラを感じる。
黒ずくめの男はサングラスで表情が読めないし、少女は近寄れば斬られそうな雰囲気だ。
「あの二人はね…。なんだか怖いんだよね、ピリピリしてるし」
アヤトもコガラスマルに同意した。
残る二人の男達は何やら話し込んでいるようだった。
鞄を持った男とラバースーツの男…身なりは奇特だが、どちらにも一分の隙はなく、歴戦の勇士のような風格を漂わせている。
恐らくは相当な修羅場をくぐり抜けて来たのだろう。
「君もここへ来た記憶はないのか?」
「うん。気付いたらここにいたんだ。里で師匠と修行してた筈なんだけどなー」
やはり、コガラスマルにも記憶はなかった。
アヤトにも、睦自身にも無いとなると、他の者にも無いのだろう。
解っているのは、何者かによって集められ、閉じ込められていることだけだ。
しかし一体誰が、何の目的で…?
そう思った瞬間、室内に無機質なアナウンスが響いた。
『お集まりのヒーローの皆様、御待たせ致しました。これより本日のメインイベントを開始致します』
その言葉に、その場にいた全員の表情が変わった。
恐らく、同じ疑問と驚愕を抱いたのだろう。
しかし、アナウンスは彼等の心情を無視し、そのまま進行した。
『ルールは簡単です。これより、参加者の皆様には最後の一人になるまで戦って頂きます。制限時間は24時間。それ以上経過しますと、左腕のリングが爆発して失格となるのでご注意下さい』
アナウンスが途切れるのと同時に、一人の男が手を上げた。
全員黒ずくめの、アヤトとは正反対のあの男だった。
「…幾つか質問がある」
『どうぞ』
「俺は普通の人間とは違っていてな、爆発程度では死なんぞ」
その言葉に、一同がざわめく。
しかし、アナウンスは無機質に答えた。
『貴方がたのデータは全て揃っています。能力は勿論、その性質も全て把握させて頂いています。貴方がたが人間以上の力を持っていても防ぐことは出来ません』
「根拠は?」
『24時間経てば解ります』
アナウンスの口振りから考えて、ここにいる全員が何かしらの未知の力を持っているらしい。
自分以外の、しかも、こんなにも多くの超人が存在していることに、睦は驚きを隠せなかった。
「何故戦わせるんだ!一体何が目的なんだ!」
今度はラバースーツの男が叫んだ。
語気を強め、言葉には怒りがこもっている。
「彼の言う通りだ。無意味な戦いをするつもりはない」
鞄の青年も、ラバースーツの男に同調する。
『意味ならばあります。あなた方の存在証明です。優勝者には存在する権利が与えられます。それ以外の方は残念ながら存在の意味はありませんので、消滅して頂きます』
その言葉に、睦は言い様の無い恐怖を覚えた。
敵と戦う時とは違う、もっと根本的な、足下が無くなるような…。
『補足としてリングから各々のデータが表示されますので、存分に活用して下さい』
アナウンスに合わせ、床が振動を始めた。
最初は微弱な物だったが、まるで波紋が広がっていくように、徐々に強さを増していく。
『それでは、皆様の健闘をお祈りします』
アナウンスが締めくくられるのと同時に、睦の視界が反転した。
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