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海辺の町、かすみにて
人気もなく寂れどこも皆閑古鳥が鳴いている様な、地方の海沿いの町にある寂れた温泉街。
その町の一角にひっそりと佇む小料理屋。
カウンター5席と8人座ればいっぱいになってしまう小上りがひとつの、小さな小さなその店内は、町の静けさが嘘の様に毎日満席、賑やかな声で溢れていた。
「霞ちゃん、こっちさもっきり3つ。あとがっこなんぼがけれ~」
「こっちゃも熱燗!あと、寿司ハタハタももらうがな~」
「はい、今お持ちしますね」
地元の常連客の方言が飛び交う中に、不似合いなほど澄みきった声で、”霞ちゃん”と呼ばれたこの店の主がにこやかに応対する。
常連客で埋め尽くされた店内に、ここ最近では珍しい初顔の客が、文字通り暖簾を潜って入ってきた。
190cmはありそうな長身のその男は店内をくるりと見回して、困ったように微笑む。
「…あー、満席ですね。―――またにし…」
「や!あんちゃ、この辺で見ね顔っこだな。――せっかぐ来たんだがら、まずこっちゃねまれは」
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