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「お待たせしてしまってすみません。―――あ、何かお飲みになりませんか?」
どこかで気持ちを切り替えたのか、先程までの曇った微笑みを消し去り、明るい表情で話しかけてきた。
彼は、何を言いかけたのだろう…
聞きたかった様な、けれど聞けば二度と会えなくなる様な…
椚は腕時計に視線を落とし、「いえ、今日はもう……会計お願いします」
自分の中の掴みきれない感情を振り払うかの様にそう言って席を立ち、背広の内ポケットから財布を取り出す。
「…そうですか……あの、まだしばらくこちらにいらっしゃるんですよね?」
幾分縋るような視線を椚に向けながらそう聞いた霞に、「え?…えぇ、まだまだ帰れないですね」と笑いながら答えると、ホッとした様に息を吐き、「…また、寄って下さいね…」そう言って、レジへ向かう。
会計を済ませた椚が、「ごちそうさま、また近々寄らせてもらいますね」そう言って店を出ると、その後に霞も続き、「ありがとうございました…また、お越し下さい…お待ちしていますから…」と、切なさの籠る声で椚を見送った。
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