海辺の町、かすみにて

7/8
213人が本棚に入れています
本棚に追加
/134ページ
さっき聞きそびれちゃって…と恥かしそうに微笑みながらも、先ほど自分が切り出したのと同じくらい唐突に年齢を聞いてきた彼に、慣れない名を呼ばれると嘘をつくことなど一瞬忘れ、素直に「32歳です」と答えていた。 「驚きましたか?よく年齢よりも年上に見られるんですよ、俺。君とは逆だね」 椚が笑いながらそう言って霞を見ると、彼は一瞬、ほんの一瞬だけ表情を無くし、すぐにまた元の優しい微笑みを浮かべる――――しかし、その瞳に自分は映っていない様な感覚を椚は感じていた。 「…いえ、年相応だと思いますよ。僕から見れば、ですが。――あぁ、でも、同じ年代の方よりも、少し落ち着いて見えるかもしれないですね。大人の男の人って感じがして、羨ましいです。僕にはない部分ですから――――それに…」 霞が何か言いかけた時、それを遮るかのように店の電話が鳴り出して、「すみません…」と一言言った後、「かすみでございます」切なく胸に響くような澄んだ声を受話器に向けた。 常連客から予約の電話だったのか、親しげに会話をした後、人数や予算などを確認して電話を置いた。
/134ページ

最初のコメントを投稿しよう!