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抱えた罪、そして憂い
「こんにちは~。・・・かすみちゃん、いる~?」
裏口から元気のいい声が、まだ開店前の店内に響き渡る。
「――はい・・・・・・あ、真人<マコト>くん―――どうぞ、上がって」
「おじゃまします。――今日はね、八重のトルコギキョウにしたよ。・・・はい、どうぞ」
「ありがとう真人くん。これ、お父さんに渡してね、お花の代金だから」
白に淡い緑で縁取られた八重のトルコギキョウの花束を受け取った霞が、”真人くん”と呼んで店に招き入れたのは、近所で生花店を営む常連客の息子。
月に一度の決まった日、その時期一番美しく咲く白い花を届けにやって来る。
ただし、今日は一段とその花の質は良く、そして花束の大きさもいつも以上のもの。
「ねぇ、霞ちゃん。これって今年で何回目だっけ?俺が6年の時からだよねぇ、確か・・・」
霞に出してもらったフワフワのシフォンケーキをフォークに刺し、たっぷりと生クリームをつけて口まで運び、ふと思いついた様に真人がそう尋ねて手を止める。
そして左手の指を折りながら、あ、5年か、と言い、またシフォンケーキを食べ始めた。
「―――そうだね・・・もう5年。あっという間だったなぁ・・・・・・真人くんも、”少し”、大きくなったしね」
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