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声の主はどこかから私の自宅の電話番号を手に入れ、さらに多くの電話番号を手に入れようとしたのだと思う。まだ「オレオレ詐欺」や「振り込め詐欺」といった言葉が広まる前のことだった。私が遭った唯一の詐欺被害(未遂)である。
ただ、今でも一つ気になることがある。それは、電話の相手の声がエリカちゃんそのものだったということだ。私の自宅の電話番号を入手したのだろうから、私の名前を知っているのは納得できる。そして相手は自ら名乗っていない。私が声を聞いてエリカちゃんだと判断しただけだ。しかし、即座に判断できるほど声と話し方が本人そのものだったのである。
もしかすると、相手は本当にエリカちゃんだったのかもしれない。何かしらの用事があって私のクラスの連絡網が必要になったという可能性もゼロではないだろう。本人に聞けばよかったのだが、聞けなかった。小学校卒業後同じ中学校に進んだが、そこでは小学生時代以上に男女の溝が深まり、彼女と話す機会は訪れなかった。
それ以来、私は電話に出られなくなった…ということはなく、仕事では毎日のように電話でのやりとりをしている。トラウマというほど大層なものではない。しかし「うそつき」をテーマとした創作を書く際に、真っ先に思い出してしまう程度には私の心に引っ掻き傷を残した出来事である。
あれほど悪意に満ちた「うそつき」を私はまだ聞いたことがない。
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