08:センセイ

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「和泉さん、勃起の薬の成分って何ですか?」 僕は仕事のファイルに貼っておいた付箋の1つを見ながら尋ねた。 昨夜、ことりちゃんがラインで再度薬を不安がられたので、僕も少し向き合う事にした。 「スッポンらへんじゃないか。」 「なるほど、スッポンらへんなんだ。」 「・・なぁ、薬の事は秘密なんだが。探られているだろ、どの客だ?」 「探るというより、心配されてる。それがきっかけで何が入っているか知りたくなった。副作用はないの?とりあえず、薬の依存は実感している。」 「正直、俺も知らん。お前が初めて使った時と薬が出来たのがほぼ同時期で、今後の体の影響は未知数だ。そして、薬が適合しない奴は悲惨だ。だがお前は恐ろしく相性がいい。むしろ、12歳頃から見られた鬱みたいな症状が改善してるしな。」 あぁ、確かに18歳までそんな時期があったけ。心が何も感じない無表情の時。 その時を抜かせば、僕はわりと常に笑っている人間だ。それが長所でもある。 薬をなくしたらまたあの時に戻ってしまい、数少ない長所を失くしてしまうのだろうか。 「久保、依存はあるかもしれないが現状のお前と薬は最高のパートナーだ。先の事なんか考えるな。てか、過去も未来も見るな。そんなの向いてないし、また病むぞ。お前は今だけを見て生きろ。てな訳で、今日の客だ。」 今日のお客様は2人。 1人目は常連、2人目は夕方に会う新規のお客様だ。オマケに、障害欄に記入がない。 僕は新規のお客様の前に、ことりちゃんと時間を過ごした。 「本当に腕が動くようになって良かった。後は足だね。」 『うん!早く治って久保君と家で引きこもる!』 「何にせよ、引きこもり。でも、腕が動けたら色々出来ていいよね。」 『本当にそれ!仕事が捗る!』 「下のはなしだよ。」 『仕事の時以外は、そういう話しはしないんじゃないの!?』 「ことりちゃんは、別。」 僕は彼女の耳を舐めながら、やんわりと触れる感じで服に手を忍ばせ体をなぞった。 甘く漏れる吐息に潤む目。 そんな中、彼女はホワイトボードを書き僕に問いかけた。 『久保君にとって、私って何?』
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