09:ムーちゃん

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ことりちゃんは僕の腕を両手で掴み、僕を引っ張ってくる。 顔を赤くして力いっぱい引っ張ってるが、ビクともしない僕。 近付いて欲しいのかな?体を寄せると、ことりちゃんは口元にキスをし出した。 なるほど、引っ張って寄せてキスをするつもりだったけど、力が無さすぎて出来なかったって感じか。 「ぷっ・・!」 『あれ、くすぐったかった?』 「違う。何をしてもことりちゃんって可愛いなぁって。息をするだけでも、本当に可愛い。」 『なんか、私の全存在を肯定してくれた(笑)自己肯定感ぐんぐん!』 お互いを求めあい、体をすり付け舌を絡ませた。 が、タイマーがいつも僕らを邪魔する。 「ああぁぁぁっ・・。タイマー嫌い。」 『オマケに、館内放送で見舞いの人は帰るよう促がされてるね。』 「時間の経過なんていらない・・。」 『時間を全否定してきた(笑)』 「ことりちゃんといる時は、時間がなくなって止まって欲しい。」 この平穏な時間を、いつまでも噛み締めたい。僕は看護士さんに止められるギリギリまで居続けた。 ことりちゃんとの余韻を残しつつ、僕は次の新規のお客様の情報を見ながら電車で移動した。 38歳の投資コンサルタントの仕事をするお客様。ハンデの名前は、アスペルガー。 アスペルガーは、知的に問題はないものの、視野の狭さや想像力のなさ、こだわりでコミュニケーションに困難を生じる障害。 ようは、気持ちを考えないで自己中心的な人物と見られやすいが、脳の関係でどうしても治らなず孤立しやすい。 ただこのタイプのハンデは、特性と適合すれば水を得た魚のように仕事が出来る。 実は、高価格の僕を買って沢山リピートしてくれるのはこのタイプが多い。 言動はキツイ部分があるのだけど、孤独を割り切ったり馴染み方を錯誤したり、僕と体を重ね答えを見つけ寂しさを紛らわしている。 共感出来ない共感。僕はそんな思いを抱きながら、話しを肯定してあげながら多くのアスペルガーを抱いてきた。 今日会う人は、どう折り合いをつけているのだろう。
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