09:ムーちゃん

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「難しいですよね。人の気持ちが分からないように、他の人はそこから来る行動が理解出来ない。だから名前をつけて理解を促そうとしてくれている面もある。少なくとも、その支援で助かっている人も沢山いるし、こうやって噛み合った会話が出来るのもムーちゃんが療育を受けてくれたからだと思う。」 「・・・・。」 「でも、ムーちゃんが言うように壁にもなってしまう。周りが困惑し区分すべき所もあるのかもしれないけど、障害という名目で必要以上に隔離や区分されたり差別の対象となってしまう。そしてハンデを名付けられた人も、更に人との距離を掴みづらくなってしまう。少なくとも、僕はそれ。距離が近付けば近付く程、僕のハンデ・・特に空気を読んだり共感力の無さで大切な人を傷つけてないか怖くなってしまう。でもハンデの名前があるからこそ対策出来る面もあるし、本当に難しい。」 「・・なるほど。アンタは想像以上に障害と向き合っている。アンタとなら出来るかもしれない。」 「何を?」 「共感。」 少し胸が苦しくなる。僕は出来るのだろうか。 あくまでも僕の共感は、経験から推測し相手の気持ちを照らし合わせる行為。脳が気持ちを感知する仕組みにはなっていない。 なのでどうしても、ズレてしまう。 僕やムーちゃんにはハードルが高い。 僕が作り出した共感で、ムーちゃんが納得すれば幸いだが。 「久保、セックスするぞ。」 「えっ?」 ムードを作る前に唐突に誘われ、僕はポカンと口をあけてしまう。そんな僕に対し、納得しながら事を説明してくれる。 「私には婚約する仲の相手がいた。だが、アスペルガーを告白したらすぐさま婚約破棄してきた。そしてこうも言われた。だからお前は共感性がないのか。特にセックスにおいて。・・セックスなんて特に共感を感じる行為な筈なのに、私はしきれてなかったらしい。だから教えて欲しい、私のセックスの何が悪いのか。」 難しい質問だ。 そんなのは本当に感覚的なものだから、あくまでも相性や体の感度な問題の気がする。セックスに何が悪いとかあるのだろうか。
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