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そうガラス越しで、悲しそうな顔をするフクちゃん。僕はそんな彼女に微笑み返した。
そしてふと、彼女との出会いを思い出す。
「こんにちは。PUZZLEの久保です。」
当時18歳。まだ新人で空気が読めなかったりでお客様からクレームを貰い、ペナルティーで罰ばかり貰ってた時期だった。
チャイムを鳴らしても一向に出てこないので、僕は勝手ながらも扉をあけた。
凄いゴミ屋敷に鳥肌が立ち、ゴミの隙間から出てきたフクちゃんに驚愕し、廃油の入ったペットボトルで足を滑らし、玄関にぶちまけてしまい自身も部屋も油だらけにしてしまった。
「ごめんなさい・・!すぐに片付けます・・!」
「いいよ~そのままで~。ちょっと玄関が滑りやすくなっただけだよ~。それよりこっちにおいで~。」
「・・はい。」
今となっては、自分で自分をツッコミたくて仕方がない。僕は油まみれのまま、フクちゃんに案内された席についた。
無理やりモノをどかした机に、お茶と大福が置いてある。今思えば、フクちゃんは精一杯僕をもてなすための準備をしてくれていたのが分かる。
「食べな~。」
「・・はい。」
「美味しい~?」
「・・はい。」
「いや~、本当に可愛いなぁ~。同じ人間だとは思えない~。」
ニコニコと喋るフクちゃんに僕は少し安心感を覚え、口を開いた。
「・・フクちゃん。」
「ん~?」
「僕、あだ名をお客様につけるのが好きです。大福だして福のありそうな笑顔だからフクちゃん。」
「とか言いつつ、体格がふくよかだからでしょ~?」
「それもあるけど。」
「あるのかい~!容赦ないなぁ~。・・ねぇ、もっと間近で顔を見ていい?」
「うん。」
フクちゃんは僕の顔を掴み、じっくり眺めだす。そして口を近づける。開いた口には沢山の虫歯。
「くっさぁぁぁぁぁっ!!!」
そう叫んで突き飛ばしてしまったのに、フクちゃんはクレームをいれずニコヤカに許してくれた。
そんな臭かった虫歯ばかりの歯は、4年後も相変わらずで、むしろ数本なくなっていた。
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