10:フクちゃん

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フクちゃんはおおらかだ。いつも笑顔で、しょうがないですませる人だ。 発達障害の幼少の療育プログラムで、「しょうがない」という言葉をインプットさせる手法がある。それは、いつか壁にぶつかっても心が折れないようにする御守りだ。 彼女もその1人だが、それすら限度になっていた。 「あ~あ・・。久保っちのように見た目が良ければ、外出るの楽しくなって、もっと色々出来たのかな~・・。」 「僕がフクちゃんの脳なら、多分一生外に出てないと思う。だからフクちゃんは凄いんだよ?」 「うっうっうっ・・そう理解してくれるの、久保っちだけ・・!」 「大丈夫、次に来る横田君も凄く人に寄り添ってくれる人だから。」 ある程度知識をかじっている人がADHDと聞くと、目新しいモノ好きで活発なイメージだが、脳の中が他動だったり切り替えやタスク管理が出来ない動かないタイプも混在する。 フクちゃんの場合、特性の先延ばしや怠け癖が凄く強いタイプ。体を動かそうとすると尋常じゃない倦怠感が邪魔をするのだ。それは、鬱などという無気力とはまた違うもの。 僕はある決断をし、スマホをいじりスケジュールを確認した。 「よし、明日フクちゃんの家の近くに来れる。」 「えっ・・。」 「フクちゃん、会おうよ。隣駅のすぐ真正面に、公園があるんだ。僕はそこで12時から12時30分までいるよ。もしも来れたら、連絡先教えてあげる。」 「でも~・・具体的な約束で鉢合わせってペナルティー・・。」 「2人だけの秘密。ね?」 僕は彼女に人差し指を当て、微笑んでみる。 すると、凄く嬉しそうにしてくれている。 約束を忘れないように、スマホのスケジュールにフクちゃんの予定をタイマーにかけ、彼女には付箋で待ち合わせ場所を書き、キスマークをつけた場所に貼りつけた。 彼女との時間が終わり、僕は玄関へ向かう。 すると珍しく、フクちゃんが迎えてくれたのだ。 「ここまで来てくれたの嬉しい!」 「うん、頑張った~!」 「よし、じゃあご褒美あげちゃう!」 僕はキッチンからラップをもってきて、それ越しで口元にキスをした。 「久保っちと初めて口同士でキスをした・・!」 「連絡先を交換して歯医者で完治したら、もっと舌を絡ませた大人のキスしようね!」 「!!!」 「これからの関係、楽しみだね!」 「うぁぁ~、久保っち、私出来そうな気がする~!」 「本当に?嬉しい。じゃあ、またねフクちゃん。」 「うん~!!!」
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