10:フクちゃん

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現在日本で承認され成人のADHDで出される薬は主に、アトモキセチン、インチュニブ、コンサータの3種類。 体の負荷があるため最終手段に使われる事が多く、様々なADHDがあるように人によって薬の相性が違い、少しずつ量を増やしたり切り替えたりと長い時間をかけ見つけていく。 その効果の実感に至るまで時間がかかったり、副作用に悩まされたり、相性の合う薬に出会えるまで長旅になることが多い。 「おねーちゃん、なんの薬を使ってるの?アトモキセチン?」 「いや、1発使っただけで嘔吐が止まらないで断念した。インチュニブは効かなくて、コンサータに落ち着けた。」 「見つかったのは良かった。」 「・・ただ、副作用が・・。」 「・・うん。」 「絵が、描けなくなった。あんだけ夢中になった絵が・・楽しくなくなったし、アイデアも思い付かない・・。確かに、無意識な行動がなくなってミスが減り頭が静かになったけど、食欲や感情がなくなった。グレーの世界にいるみたい。なんのために生きているかわからない。でも、コンサータが効いた日から私の評価は上がった・・。今の職場、一緒に働いている人達が凄く素敵なんだ・・凄くいい職場・・。でも・・でも・・!」 「・・うん。」 「私は君に会いたいが一心で、体を慣らし働いていたのに、薬でその気持ちが薄れてしまっていた。今日君に会う前にちょっと長期有給使っちゃってコンサータ止めてみたら、会いたい気持ちと描きたい気持ちが爆発した。人間らしい感情が戻った。ハハッ・・もう、どうすればいいのやら・・。」 「もしかすると、この先もっとおねーちゃんに相性の合う薬が開発されたり、薬なしでもおねーちゃんに合う環境に出会える可能性もある。」 「・・だといいなぁ・・。」 「少なくとも、字が書けない、ハサミも上手く使いこなせない・・今おねーちゃんがやっている小学生でも出来る事が出来ない人間でも、合う環境があるんだから。」 「・・えっ・・?」 僕は出来るだけ、障害手帳を見せたくない。 でも、今のおねーちゃんには見せたいと思い、リュックから取り出し手帳の中身を見せた。
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