11:こわいひと

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ウィッグを外し、普段のように指定した場所にバイクで送ってくれる雪華さん。 「あーあ、もっと雪華さんと居たかったなぁ。」 「嬉しいけど、約束は守らなきゃ。お店の人と買い物なんでしょ?」 「うん、こわいひとと。あ、雪華さん。ここで大丈夫!」 「分かった。それと、凄いあだ名ね・・失礼じゃないかしら・・。」 「だって、恐いんだもん。あ、ほらあそこの人。」 そう指差したのは、相変わらず図体の大きく何かと戦った痕跡のある傷と失くなった指2本、サングラスで恐怖そのもののを凝縮した人間。本人とは正反対の印象の可愛らしい花壇の前で音楽を聴きながら待っている。 そんな彼を見て、雪華さんは僕の手を掴み制止してきた。 「・・借金取りよね?」 「うん。こわいひとと呼んでるけど、意外に温厚だし僕に対して同情的だよ。保険証を落とさないよう縫い付けてくれたし。」 「あぁ・・あのお母さんみたいな人が彼なんだ・・。」 雪華さんが手を離すと同時に、こわいひとも此方の存在に気付いてくれる。 イヤホンを外し、彼は深々とお辞儀をしだした。すると雪華さんも、ヘルメットを外しお辞儀を返す。 「じゃあね、久保君。」 「うん。海外勤務頑張ってね。帰ってきたら、また勝手に遊びに来るよ。」 「嬉しい、お仕事を頑張って株価あげるから期待してて。」 バイクで去る雪華さんを見送ってから、僕はこわいひとに近寄った。 「和泉さん、お待たせしました。」 「・・ヘルメット、外さなくて良かったのに・・。あの人だよな、さっきまで相手にしていたXジェンダーのお客様は。」 「うん。」 「だいぶ抜けたとはいえ、俺ならお前の異質さはすぐ分かる。・・あれは、完璧な定型だな。定型発達で少数派の性・・それはそれで辛いだろうな。」 サングラスで見えないが、同情的な眼差しで雪華さんを見ているのが伝わった。 こわいひとは僕の事をよく知っていて理解しているが、僕はこわいひとのことをよく知らない。知っているのは、僕のように見えないハンデを持っている娘さんがいた事と、その人がきっかけで闇業界に来た事を風の噂で聞いたぐらい。
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