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「とりあえず、髪切りにいくぞ。クーポンが明日までだから、拒否は不可だ。」
「・・はぁ・・。」
「・・ガキの頃から、嫌いだよな。」
「あのジョギジョギって音、虫酸が走る。後首に巻くタオルがチクチクする。」
「大変だな、感覚過敏。でも、いい年なんだから我慢しろ。終わったら、アイス奢ってやる。」
「アイス!」
さすが、僕のやる気スイッチの押し方を理解出来ている。
着いたのは、住宅街にある小さな美容院。言うほど高くなく腕のいい美容師が揃ったチェーン店らしい。
なかに入ると全席埋まっており、子連れが一組待っている。
僕らはその子連れと離れた席に座った。こわいひとの存在に怖がらないための子どもの配慮だ。
「久保。候補がコレとコレとコレなんだが、どれがいい?」
「どれでもいいよ。」
「・・コレは毎回ワックス使うから、お前じゃ保てないな。」
「うん。寝癖直すので手一杯。」
「じゃあこっちか・・いや、でもなぁ・・。」
真剣に悩むこわいひととは正反対に、僕はボーッと子連れを眺めている。
格好よくして貰おうね。そんな話しをする母親を無視し、男の子は車の玩具を椅子に綺麗に横一列に並ばせている。
「ったく、自分事なのに他人事のようにしやがって。お前は自身が商品だって自覚しろ。そんなあの子どもが気になるか?」
「・・うーん・・。」
「小さい頃のお前にそっくりだ。初めて会ったとき、お前もあんな感じだった。車を並べて遊んでて、楽しいかと聞くと、駐車場はあちらですとニコニコしながらキチガイ回答をしていた。」
「よく覚えてるね。」
「お前が診断つくほど忘れっぽいだけだ。」
そういえば、こわいひととの出会いは、あの目の前の男の子と同じぐらいの年齢だった。
借金取りの人は父には怖いけど、幼少期の僕には優しかった。皆口を揃えて、可愛いね将来楽しみにしていると言ってくれていた。
まぁ、将来親の肩代わりに風俗で稼がせる金の成る木としての誉め言葉だろうが。
そんな中、こわいひとだけは誰よりも深刻そうな顔で僕を見つめつつ、色々なモノをくれた。
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