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「せっかくの俺の頂きものだ、目の前で美味しそうに食って終わらせろよ。」
そう言いながら、こわいひとはご飯をよくくれた。
親が他の借金取りに殴られている時に、僕はそうやって目の前で食べさせられたのだ。
パニックになりつつ、ただおにぎりは美味しく、でも殴られている親の目の前での食事が心苦しく、もう訳の分からない感情に支配され、泣き笑いをしながら口の中におにぎりを詰められた。
「すばる、何があっても笑うんだ。笑顔を忘れるなよ。お前の笑顔と愛嬌は、この先人生を助ける最強の武器だ。」
「うっ、えへへっ・・うぅぅっ・・お腹苦しいよ・・。」
「どうせまともに食わせて貰ってないんだろ?遠慮しないで食え。」
「うぅっ・・げぇぇっ・・!」
「あぁ、悪い。本当に腹一杯だったか。」
「・・あのね、残りはお父さんとお母さんに・・。」
「駄目だ。俺はお前にしかあげるつもりはない。そして、母親は働いてるからちゃんと食わせてる。安心しろ。」
「・・お父さん、可哀想・・。」
「可哀想なのは、お前なんだよ。」
「・・?」
「・・すばる、色々なおにぎり食ってきただろ。なんの具が美味しかった?」
「ツナ昆布。」
「そうか。じゃあそれは毎回持ってきてやる。」
「後ね、綺麗な三角形がいい。今日のはちょっと崩れてて嫌だった。」
「図々しくて面倒くさいな。」
そう言われたものの次に会った時は、おにぎりケースにいれて綺麗な三角形のおにぎりを持ってきてくれた。
「次の方どうぞ。」
そんな美容師の声で、現実に引き戻される。だが、呼ばれたのは僕ではなく子連れの方だ。
男の子が座椅子に座ると、美容師が首にタオルをかける。
すると、男の子は肩をムズムズ動かしつつも、目を瞑り必死に耐えていた。
偉いなぁ。
あの首のタオル、痒いよね。
そんな我慢する男の子と裏腹に、美容師は無表情にタオルを取り外した。
「あの・・?」
「これ、絶対動きますよね?危なくて切れないですね。」
「いや、首のタオルは苦手でこうなっちゃいますが、後は・・」
「動きますよ、これは。切れないですね。申し訳ないですがお帰り下さい。躾をしてから来てください。」
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