11:こわいひと

6/18

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/314ページ
「せっかくの俺の頂きものだ、目の前で美味しそうに食って終わらせろよ。」 そう言いながら、こわいひとはご飯をよくくれた。 親が他の借金取りに殴られている時に、僕はそうやって目の前で食べさせられたのだ。 パニックになりつつ、ただおにぎりは美味しく、でも殴られている親の目の前での食事が心苦しく、もう訳の分からない感情に支配され、泣き笑いをしながら口の中におにぎりを詰められた。 「すばる、何があっても笑うんだ。笑顔を忘れるなよ。お前の笑顔と愛嬌は、この先人生を助ける最強の武器だ。」 「うっ、えへへっ・・うぅぅっ・・お腹苦しいよ・・。」 「どうせまともに食わせて貰ってないんだろ?遠慮しないで食え。」 「うぅっ・・げぇぇっ・・!」 「あぁ、悪い。本当に腹一杯だったか。」 「・・あのね、残りはお父さんとお母さんに・・。」 「駄目だ。俺はお前にしかあげるつもりはない。そして、母親は働いてるからちゃんと食わせてる。安心しろ。」 「・・お父さん、可哀想・・。」 「可哀想なのは、お前なんだよ。」 「・・?」 「・・すばる、色々なおにぎり食ってきただろ。なんの具が美味しかった?」 「ツナ昆布。」 「そうか。じゃあそれは毎回持ってきてやる。」 「後ね、綺麗な三角形がいい。今日のはちょっと崩れてて嫌だった。」 「図々しくて面倒くさいな。」 そう言われたものの次に会った時は、おにぎりケースにいれて綺麗な三角形のおにぎりを持ってきてくれた。 「次の方どうぞ。」 そんな美容師の声で、現実に引き戻される。だが、呼ばれたのは僕ではなく子連れの方だ。 男の子が座椅子に座ると、美容師が首にタオルをかける。 すると、男の子は肩をムズムズ動かしつつも、目を瞑り必死に耐えていた。 偉いなぁ。 あの首のタオル、痒いよね。 そんな我慢する男の子と裏腹に、美容師は無表情にタオルを取り外した。 「あの・・?」 「これ、絶対動きますよね?危なくて切れないですね。」 「いや、首のタオルは苦手でこうなっちゃいますが、後は・・」 「動きますよ、これは。切れないですね。申し訳ないですがお帰り下さい。躾をしてから来てください。」
/314ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加