11:こわいひと

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手を止め、すぐさま店長が親子に謝罪をする中、母親も謝罪をしすぐに店を出ていった。 「僕、悪い子だった・・?」 そんな出る間際の男の子の台詞が胸に突き刺さる。 店長が美容師に何か言おうとすると、僕の肩を掴み強引に席に座らせた。 あぁ、この人に切られるのか。 一方美容師は僕を気に入ったらしく、先程の無愛想はどこにいったのやら、満面の笑みで対応してくれる。 「お待たせしました!いやー、お兄さんみたいな格好いい人を切れて嬉しいです!今日はどんな髪型にしますか?」 「僕は何でもいいけど、後ろにいる人がこだわっている。」 そう指さした先に、怒りのオーラを発するこわいひと。美容師に無言で付箋をした雑誌を渡し、ドスドスとあえて大きな音を鳴らして座り込んだ。 さっきの男の子の件で、けっこう腹をたててるな。情が熱い。 一方美容師は涼しい顔で雑誌を確認し、僕の髪を切り始めた。 この人はこの人で、感情の読み取る能力に不安を感じる。 「さっきの男の子、凄かったですね。」 「ですよね!あんな動いて、切れるものも切れないですよー。」 「・・あの子、髪を切るのが苦手そうだったのに、我慢してて凄いなと思いました。」 「でも全然、切れる標準には達してないですけどね。」 「標準かぁ。」 「あぁいうのは、ハッキリと分かりすく拒否しちゃった方がいいんですよ。ハサミは髪を切るだけでなく傷付けるものですから。実は昔、動く子どもを切って傷付けちゃった事があるんです。大事にはならなかったけど、その子は更に髪を切る事が苦手になったんです。お互いに良くない、何もいい事はうまれない。髪を切る手段なんて、沢山あります。」 美容師さんの言い分はごもっともだ。 ただ男の子側の僕からすると、言葉を選んで欲しかった。でも、曖昧な言い方だと再度来ちゃった過去があったりするのかな。難しい。 「僕、髪を切るのは今も苦手だし、小さい頃はあの男の子よりもっと暴れてたと思います。お兄さんは、どうでしたか?」 「覚えてないですねー。ただ、お客様の場合はお父様が厳しそうなので、躾られてそうですけどね!」
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