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「すみません。人の顔を覚えるのが苦手で・・申し上げにくいのですが、何処かでお会いましたか?」
下手に嘘をつく事を避け正直に話すと、嫌な顔をせずに、むしろニコヤカに経緯を教えてくれた。
「すばるさんが覚えてないのは、当たり前です。会ったのは1年前で、時間としてはほんの一瞬だったので。」
「そうなんですか、じゃあ覚えてないのはしょうがないですね。」
「うふふっ、そうですね。すばるさんは一瞬の事だったかもしれませんが、私は助けて頂き、深く心にアナタの事を刻んでます。・・これを見ても、思い出しませんか?」
彼女が自ら前髪を右に流すと、うさぎのような火傷の跡が見えた。
それを見た瞬間、記憶がリンクしあう。
多くの人が行き交うスクランブル交差点。
その人の流れの中、義足の少女がつまづいて転けた。
だが、小石が川に入っただけのように、流れは止まらず、信号すらもカチカチと光り急かしてくる。そんな中、僕は義足の少女を抱き上げ、歩道へ移動した。
「大丈夫ですか?」
怪我がないか確認する際髪に触れると、跳ねるうさぎのような跡が目に入り、速攻に思いついたあだ名を口に出してしまう。
「うさぎちゃんだ・・。」
「えっ・・?」
「あ、頭の右上のところ、綺麗なうさぎがいるなって。怪我がないようで良かったです。じゃあ。」
「ま、待って下さい・・!お礼がしたいです・・!」
別にお礼を受けとるような事はしてないし、何より次のお客様が待っている。
そんな訳で、僕は早々立ち去ったんだっけ。
「あぁ、うさぎちゃん。」
「思い出してくれて、嬉しいです・・!私、どうしてもお礼がしたくて、アナタの事を調べてたんです!勤めてらっしゃるお店から、未成年で門前払いされてしまって・・今日18才になり、やっとアナタに会え、嬉しいと思っています。」
「えっと・・たいした事などしていないし、僕とよく関わろうとしましたね。出張風俗ですよ?」
「私、あの時絶望的で、どーにでもなっていいと思ってました。・・転けて、誰も助けてくれず、このまま車にひかれていいやって・・。でも、すばるさんが助けて世界が一変しました。こんな、素敵な人がいるんだなって・・!」
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