06:ボクはクボ

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人間扱い、しきれているのだろうか。 感謝されているが、お母さんの言葉を素直に受け入れてない辺り、自身は納得しきれてないのだろうな。 乗り越えられない壁がある。僕は彼女と接してそう思ってしまう。人には心があるはずなのに、それを感じられた瞬間がないのだ。 「本当に、グッスリ寝てる。久保さんと一緒に過ごした後の寝顔は穏やかなんです。」 「でも、その後また暴走するんですよね。それだと何も解決してない。」 「ふふっ。久保さんは、2時間共に過ごすことがお仕事じゃないですか。病院ですら、娘をベッドに縛りつけ薬で大人しくさせるのに手一杯なのに・・だから高くてもアナタに頼っちゃうんです。幸せなそうに寝る娘を見れれば、私の人生は充分です。」 色々吹っ切れた笑顔で、娘さんを見ながら言われた。 明らかに、彼女が変わることを諦めている。 いや、方法はあるはず。 乗り越えられない壁を持っているのは僕の方だ。僕が壁を作っているから、彼女は入り込めないんだ。明らかに僕の包容力不足。 まだ手段があるはず、一緒に諦めないでいきましょう。 そんな気持ちなのだが、長年彼女と向き合い結論が出たお母さんに凄く酷な言葉だ。 手段があるから僕は諦めない。 でも、結論や結果を出せずうまい言葉がけも出来ずに、頭を下げ家を出てしまった。 「大丈夫。次こそ、うまくいく。諦めない。」 声に出し自身に言い聞かせるが、体が反論しポロポロと涙が溢れてしまう。 嫌だな、どうしても出てしまう正直な反応。 せめて1秒たりとも、彼女の前でそれを出してない事を願うばかりだ。 人をヒトとしてみない。 その視線は、本当に傷付くのだから。 とりあえず、仕事は終わった。 いや、まだ半分仕事のようなものが残っている。 駅の貸出ロッカーから紙袋を取り出し、僕は電車に乗り込み病院に向かう。 凄く大きな大学付属の病院だ。 はじめは理解出来なかった受付の手順も、自分の力で5年も通えばお手の物。 僕はエスカレーターとわたり通路を駆使し、早足でとある病室へ向かう。
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