06:ボクはクボ

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その頃は、美味しいものを食べたり旅行したり裕福な暮らしをしていた。だが、小学校に入る時と同時に生活は一変した。 狭くて古いアパートに、ゴミから拾い上げた衣類、炭水化物ばかりのご飯。 案外、貧乏というのは苦では無かったが、借金の取り立ての人が父に暴力を振るうのが一番辛かった。 そんな中、逆に母が綺麗になった。 そこまで格好に気を使うタイプじゃなかったのに、借金の取り立ての人に何処か連れてかれた日は、綺麗にメイクや髪型がセットされて芸能人みたいだった。 「お母さん、凄く綺麗!」 母にそう言うと、複雑そうな顔をする。そして当時、僕の借金取りだったオカマさんにいつもこう言い返された。 「一番綺麗なのは、君よ。ふふっ、高く値が張りそうで、18歳になった日が本当に楽しみだわぁ!」 6歳の時その意味が分からず首を傾げていたが、母はいつも苦しそうにしていた意味が今なら分かる。 生活が苦しいながらも、家族仲は良かった。借金取りさえいなければ父は常に笑っていて、母と僕もつられて笑っていた。 ある事が起きるまでは。 それは、小学生4年の時。 当時僕と関わっていたクラスメートの立場からすると、奇行があって支離滅裂な会話をすることもあるが常に笑っていて悪いやつではない、そんな印象だったと思う。 ただ一部の人からは凄く嫌われ、僕が何かする度に「気持ち悪い」と言われてしまう。 嫌な言葉だなぁと思いつつも、あまり深く受け取らず常にニコニコしていた。 「久保君、今日はおにぎりなんだね・・!」 1ヶ月に1回の学校のお弁当の日。 担任の先生が嬉しそうに、声をかけてくれた。いつもは、菓子パン1個。僕もおにぎりが嬉しくて、ついつい先生に自慢してしまう。 「そう、おにぎりなんだ!三角、綺麗な三角!」 「本当だね、綺麗な三角だね!」 「中は、おかかなんだ!でね、素敵な三角なんだ!」 「美味しそうだね!」 「うん、お母さん頑張って朝早くに作ってくれたの!綺麗な三角で!」 「うんうん!」 4年生の時の担任は、学校で唯一僕に寄り添って話しを聞いてくれた大人だ。 そんな先生と楽しい会話をした後、よく意地悪をいう男児が耳元でこう呟いてきた。
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