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僕の人生の豊かさを左右する、1日1個の楽しみ。そんな貴重な時間を、キャラメル1個で終わらすなんて。
「・・・・。」
「せっかくの俺の頂きものだ、目の前で美味しそうに食って終わらせろよ。」
「・・・・。」
「よし、食ったな。これで1日1個のお菓子タイム終了だな。」
「・・・・。」
駄々下がりなテンションの中、こわいひとはニコヤカに手を振って見送ってくれる。
「・・はぁ・・。」
事務所を出て、真っ先に出てしまったため息。
そんな声と同時に、泣きじゃくる横田君が出てきた。一刻も早く事務所を出た様が伝わる。
「ぐ、ぐぼざ・・あ、ありが、ありがどうございまず・・・!」
「いえいえ。」
「あの、ぢょっと、まっでで下さい・・!」
そう言い残し、横田君はどこか駆けて行ってしまった。
・・待つって何時までだろう。
僕が遅刻してお客様を怒らせたとしても、ペナルティーが罰されるのは元凶で利益の薄い横田君なんだけどなぁ。
とりあえず、店を出なきゃいけない時間用のタイマーをセットしておいた。
横田君は、勤務歴3ヶ月の長身の新人だ。
縦に長いけど横田なんだと名前はすぐに覚えられたけど、特徴のない顔で、店以外で会ったら彼が横田君だと認識出来ないであろう。
そんな彼は、すぐに戻ってきた。
先程より少し顔色が良くなって、袋いっぱいのお菓子を僕の前に差し出しながら。
「久保さん、よかったらこれ・・!」
「ありがとう。でも、お菓子は1日1個だから平気だよ。」
「遠慮しないで下さい!あ、もちろんこれでちゃらになったと思ってませんよ!俺もいつか久保さんを助けられるよう頑張ります・・!」
「遠慮じゃないから大丈夫。お菓子は1日1個だから、逆にあると食べたくなっちゃうから要らないんだ。」
「そういや、久保さんって美意識高いって聞いてますが、糖質制限もしてるんですか?」
「それもあるけど、お菓子は1日1個なんだ。あると食べたくなっちゃって、イライラするんだ。」
「自分に厳しいんですね・・!でも、ちょっとくらい・・。」
「お菓子は、1日1個なんだ。」
大人げなく、最後は少しキツく言ってしまった。再度涙目になる横田君を見て、申し訳なく思ってしまう。
「ごめんね、本当に気持ちで充分だから。」
「はぁ・・。してあげたいのに、一方的になっちゃう。だから俺は駄目なんだ・・。」
なんか、想像以上に落ち込んでいるなぁ。彼の今後の仕事に差し支えそうだし、話しを聞いてあげた方がいいかな。後15分位しかないけど。
「してあげたいのにって気持ちは、何よりも大事だと思うけどなぁ。特に、この仕事は。お客様を嫌悪に見る従業員が多いなか、横田君の意識は、僕的に大好きだよ。」
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