06:ボクはクボ

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キスが終わると、次は抱き締めてくれる。柔らかくて気持ちがいい。僕は甘え、ことりちゃんの胸の中で沢山泣いた。 泣き終わると、綺麗サッパリと流れてしまう。 「僕、なんで泣いているんだっけ?」 『えっ(笑)』 「思い出せない。」 『借金の話しをしていた。お金を返す手段、他にあるんじゃないかな。お仕事辛くない?』 「辛くないよ。むしろ、やりがいを感じてる。僕と出会い前向きになるお客様を見るのが、凄く嬉しい。」 『そうだよね、私も久保君のおかげで、声を出すことの抵抗が和らいだ。』 「それに、障害枠だとしても僕が就職するの厳しいと思う。手先が不器用で、字すら書けない。」 『字、全く書けないの?』 「小学生レベルの字なら。あ、でも漢字はよく間違える。」 『久保君の字、見たいな。』 見守る暖かい眼差しを向けられ、どんな下手な字でも受け入れて貰える雰囲気で書きやすい。 メモ帳に「ボクはクボ」と自己紹介文と電話番号を書きだした。 『しっかり止めとハネを意識しつつも、自由な字。久保君らしくて好き。』 「ありがとう。」 『逆さから読んでも、ボクはクボだね(笑)そして、電話番号!』 「嬉しい?」 『聴覚障害の私は生殺し(涙)』 「ライン。」 『なるほど!送っていいの?』 「うん。僕は気まぐれで返事したりしなかったり。送ったり送らなかったり。」 『久保君っぽいなぁ(笑)』 「でもね、時間が少しでも出来たらことりちゃんのお見舞いに行く!」 明らかに口元がニヤケ、頬を赤らめることりちゃん。喜んで貰えて良かった、気軽に会いに行ける事が嬉しい。 お互い気持ちいい空気で和んでいるタイミングで看護士さんが入ってきて、足のリハビリの時間が来てしまったので解散した。 いい1日だった。 普段は夜までお客様に会い遊んでいるけど、今日はこの後残りのまま過ごしたいと思い、真っ直ぐ家へ帰る。
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