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そんなタイミングでタイマーが鳴り響き、僕はキスをして別れを惜しんだ。
「ことりちゃんといるの、一瞬だった。」
『早く退院して、少しでもインポの治療を進めてあげたい。』
「うん、頼んだことりドクター。」
『半泣きで気持ちよくなる久保君を見るの、本当に楽しみ!』
また泣かせるつもりなのか、Sだなぁ。
そして楽しみにしている僕はMだ。
その後、リピーターのお客様と肌を重ねた。
ことが終わり外へ出ると、辺りはどんどん暗く染まる中、ゆっくり前へ進んでいく。
最後のお客様は、初めて対応する世間の壁を持つお客様。様々な障害の情報を扱ってきたこわいひとですら、初めて出会ったらしい。
「基本月・火・水曜日が男で、木曜日が性の境目に入ってグチャグチャになり、金・土・日曜日が女になる。Xジェンダーの不定性ってやつだが、身体が男だから男として世間に出ているようだ。で、男女どちらの時でも恋愛対象は男らしい。本番はなしでいいと書いてあるが・・まぁ変態プレイになるだろうから頑張れよ。」
そんなこわいひとの台詞を思い出した。
変態プレイなのは、まだいい。いや、普通がいいんだけどね。
僕が1番問題だと思ったのは、周りから理解されず偽りの性で過ごしていることだ。人口1%未満の属する性、苦しいだろうな。
今日は金曜日。女性として会う日だ。
この人の体のベースは男で、心が女性になっている時はどんな心境なんだろう。むしろ、木曜日の性別が混ざる日って凄く辛そう。
まだ会ってもないお客様に同情していると、こわいひとから電話が掛かってきた。
「久保、お客様から電話があり、仕事の関係で遅れる。時間通りにタイマーを進めて残り時間を相手にすればいいようだ。」
「そうなの?」
「あぁ。その待っている間に過ごした料金は、お客様が負担してくれる。驚いた。電話で話したが、良識的で感じのいい青年だ。中身が女性と全く感じなかった。」
他人に厳しいこわいひとに、この評価。なかなかすごい人だ。
そして、良識的な人が曜日によって性別に翻弄されているって、抱え込んでそうだなぁ。電話とはいえ、観察力のあるこわいひとすらXジェンダーと感じさせないぐらい自分を偽り演技している。
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