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「……ええと、日下だよね? それは?」
「とぼけるのか、金光結飛人? これが何か知らない顔には見えないが?」
男、日下誠弥は不敵に笑む。明るい褐色肌と刈りたての芝のような短い黒髪、黒い襟つきのシャツ。確か東南アジア系のハーフだったか。高校卒業以来、直接会うのは一度切りの同窓会を除けば初めてだったが、30代半ばになった今でも目力は健在らしい。大きな瞳は意志の強さを秘めるように静かに光っていた。
日下が手にしているのは、一見するとただの旧式のボールペンだ。出会い頭の衝撃が去り、ようやく落ち着きを取り戻した結飛人は目を瞬いて表情を和らげた。
「MG、ミミックガンだろ? 分野は違うけど、応用科学に携わる人間は割と知ってるんじゃないかな」
「……」
「俺が聞いたのは、どうしてそれを俺に向けるのかってこと」
「それも、お前は知ってるはずだ」
サアア、と風と共に草木の音が運ばれてくる。合成繊維のグレーパーカーに風が染み込んで、汗で湿った体を冷やした。
15年。このリュウゼツランが咲くまでの間に過ぎ去った時間――。
「いや、俺は知らないよ、日下」
フワフワした前髪を手でどかす結飛人に、日下が目つきを鋭くする。
「金光……」
「だってそうだろ? 同級生に、思い出の場所で、銃を向けなければならない理由って何だ?」
相手がハッとした顔になった。結飛人は天を突く勢いのリュウゼツランを一瞥すると、近くにあるベンチを示した。
「せっかく花が咲いたんだし、久し振りに話でもしない? ちょうどいい場所もあることだし」
痛み、苦悩、諦めの念。何かは分からないが、日下の表情にそういった影が過ぎったこの刹那、彼は間違いなく高校生の頃の彼と同一人物だった。
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