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――金光!
あの日、リュウゼツランの看板の前にいた日下に手招きされた結飛人は、ちょっと面食らった。クラスメイトとはいえ、大してからんだことはなかったからだ。
別に苦手意識はなかったので、結飛人はごく自然体で彼に応じた。
――この草、花が咲くの20年後ぐらいらしいよ。すごくない?
――マジか。すげー、めっちゃマイペースだな。
素直に感動した。きっと、日下もこの驚きを誰かと分かち合いたくて、近くでゴミを拾っていた結飛人に声をかけたのだろう。
放射状に長い葉を生やしたその植物を、2人はしばし観賞した。5月頃だったか、まぶしい日の光が照りつけ、白く縁取られた厚い葉は青々と健康的に艶めいていた。今まで素通りしていたのに、このグリーンの物体が急に愛おしく思えてきた。
――20年後って、俺らどうなってるんだろ?
どちらかがポロッと口にした。受験の時もそうだったが、結飛人は気分や流れに任せて生きているタイプで、そんな先のことなんて何も想像できなかった。高校生はみんな似たようなものだろう、とも思っていた。
だが。
――日下は、何か夢とかあるの?
――俺?
警察官かな。予想に反してそう言い切った日下の表情に、結飛人は目を見開いた。
淡い褐色肌の同級生は、大らかに口角を上げていた。強い光を宿した真っ直ぐな瞳。結飛人にとっては、全てが、呆れてしまいそうになるくらいまぶしかった。
「この花が咲く頃どうなってるかなんて、全然考えられなかった。お前と違ってさ」
もう、随分と昔のことだ。実際には20年かからなかった訳だが、その間に、2人の母校があるこの町も、合併して東伊豆市に変わってしまっていた。
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