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改めて、リュウゼツランの異観に目を移す。木のように立派な花茎の根元には、竜の舌に例えられる、細かいトゲを有した長く大きな葉があった。かつてのウニもどきのようなはつらつとした姿ではない。怪物染みた花に養分を持っていかれた葉は、弱った数枚を残して失われていた。花が枯れると、この株は終焉を迎える。
一度目を閉じて、結飛人は暗闇の中に身を置いた。コップの液体をゆっくりと、全てのどに流し込む。
「まさか、植物に何の興味もなかった俺が、農学部に入って、研究職についてるなんてな。コイツに影響されすぎだろって自分でも思うよ」
のんびりと、しかし一歩踏み込んだ結飛人に、日下は振り向いた。右手が気になるのか、反対の手で指や手のひらを揉んでいる。
「……俺にもあるかもな、影響」
「そうなの?」
「何だかんだで、今やってるのはガーデニング関係の仕事だ」
自分自身に確認しているような慎重な口振り。嘘には聞こえなかった。
再び前を向いた日下の浮かない横顔に、どんな顔をすればいいのか分からなくて、結飛人はただぼうっと彼を見つめた。あの日以降も、日下とはたまに学校で話す程度の接点しかなかった。なのにこうして2人とも――100%の真実ではないにしても――リュウゼツランに影響されてしまっている。
これって何なんだろうな。そう問いかけたら、日下は笑うだろうか。こんな詩人か哲学者みたいなことを考えるなんて、さすがに酔いが回ってきているかも知れない。
結飛人は日下の側にあった彼のコップに手を伸ばすと、そこに僅かに残った生ぬるい酒を飲み干した。軽く息を吐き出す。
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