いつも桜の季節には

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いつも桜の季節には

 「努力は必ず報われる」という言葉がある。  当てはまる人は一体どのくらいいるだろうか。  今から話すのは、僕の物語である。  ◇  小学校になかなか馴染めなかった僕を救ってくれたのはYouTubeだった。  「今日は学校どうだった?」とかいちいち聞いてこないからいい。華麗にピアノを弾いてみたり、気の利いたトークで笑いを取ってみたり。自分も何者かになれた気がした。そう、あの時だけは。  僕が小学校を卒業した2019年は、実際に「将来つきたい職業」ランキング1位にYouTuberがランクインしたし、同じ夢を見ている子供たちは大勢いるのだ。  もちろん、卒業文集には「大きくなったらYouTuberなります」と得意げに書いた。  僕は、毎日毎日YouTubeに動画をアップした。  再生回数なんて気にせず、自分が面白いと思うものを手当たり次第に上げていく。  半年ほど続けていると、だんだん高評価ボタンがつくようになった。 「やった!100いいねがついたぞ」  ただただ楽しかった。生きてる感じがした。  中学2年生までは。  中学3年生になると、受験ムード一色に変わった。進学校の高校に入ると、すべてが大学受験のために存在しているようなものだった。大学に入れば、周りは資格の勉強を始めた。  そして、みんな会社員や公務員になった。 「光太郎、まだYouTubeやってんのか。そろそろ地に足つけろって」 「いい加減、真面目に働けよ。せっかく頭も良いんだし」  そう言われるのも無理はなかった。  特別バズった動画があるわけでもない。  馬鹿の一つ覚えのようなものだから。  たったひとつの低評価が100の高評価を上回るように、周りの冷やかしも創作意欲を奪っていくものだった。  YouTubeのチャンネル登録者数は351人。  一方、国民的アイドルがYouTubeを始めれば、あっという間に100万人を超える。  鳴かず飛ばずの13年。  今年、26歳になる。 「結婚しました」  Facebookを開くと、ウェディングドレスとタキシードの写真が目につくようになった。  あーもうそういう時期なんだ。俺は今まで何やってたんだろう。夢ばっかり追いかけていて気づかなかった。  22時過ぎ。いつものように一人でカップラーメンを食べていると、YouTubeにコメントが届いた。 「センス絶妙すぎませんかww 構成作家を探しています。興味があれば一度お話ししたいです」  ◇  あれから5年。  僕は今、レッドカーペットの上にいる。  ここから見える景色は、かつて想像できなかったものだ。  僕から言えることは一つ。 「努力は必ず報われる」  かどうかはわからない。  でも、自分を貫く覚悟は誰にも奪われないということだ。  冬の寒空に耐えた桜ほど、綺麗に花ひらくように。
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