第1章

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私が席に着くと、彼女はぎょろりとした目で首を少しだけ後ろに傾け、私を見ようとしていた。 その異様な動きに、私は少し違和感を覚えたが、きっと入学して間もないから、緊張しているせいだろうと深く考えないようにした。 事前に購入していた教科書を出して、先生が来るまでの時間、パラパラと捲って目を通していた。 窓から春らしい暖かな風が入って来て、心地よかった。 それでも、目の前の彼女の背中から発せられている緊張感は変わらないままだった。 一度こちらを振り向こうとした後は、もう彼女が動くことはなかった。 先生が入って来て、付近の人たちと円になって自己紹介をしましょうという、よくある指示が出された後、教室内は一気に騒がしくなった。 私の席からは、前後、横、そして斜めの席の人たちとグループになり、挨拶をした。 時計の反対は周りに、左斜め前の子から自己紹介を始めた。 どの子も授業初日で、これから始まる新しい生活に胸をときめかせているような様子で、聞いているこっちも胸が躍るようだった。 なんとなくこの年齢になって自己紹介なんて、と気恥ずかしい思いもあったが、当たり障りのないことを手短に話し、私の紹介は終わった。 さっきの一瞬目にした、ぎょろりとした目を思い出し、次の葵に回すのにためらいを感じて、目を合わせずに促した。 「はじめまして。高梨葵です。生まれはイギリスで、帰国子女です。実家は東京で、今は実家から通ってます。趣味は、ピアノと生け花。あと、10年習っていたバレエも好きです。よろしくお願いします。」 そう言って、硬くなった顔の筋肉をどうにかして微笑みに変えようとしていた。 彼女の発言の後、どうにも堪え難い気まずい空気が流れたのは、その趣味には似つかわしくない彼女の容姿のせいだと思った。
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