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この日を選んだのは腹いせだった。 8月頭に3日間開催される夏祭りはこの街を代表する大きなイベント。 派手な踊りやプロジェクションマッピング、更には全国各地の名産品が出店で楽しめるとあって、県内県外を問わず多くの人がこの街に集まってくる。 中でも最終日、つまり今日は格別で、朝から有名キャラクターが街中をパレードで練り歩けば昼には人気芸人さんが漫才をして夜には大きな花火が打ち上がる。 誰もが笑顔で、誰しもが浮かれているのが今日という日。 そんな火照った空気にひや水をぶっかけるような気持ちで私はこの屋上に足を運んだ。 私は手摺を強く握りしめて見下ろした、学校からそう遠くない神社の境内を。 オレンジ色に滲む出店の照明や個性が溢れる鮮やかな着物が輝いている。 眩しいくらいの喧騒は真っ暗な校舎にまで響き渡る。 これではまるで昼と一緒、空間が詰まるようなあの日中の学校と同じじゃないか。 尚も声にもならない人の音が鼓膜に届く。夜の学校から静寂を奪う夏祭り、私が嫌いな人たちは多分夏祭りの中心にいる。 私はどこかにいるその人たちを睨みつけながら手摺に足を掛けた。 そのとき。 不快な喧騒を掻き消すように後ろからガチャンとドアの鍵が開く音がした。 「あれ、先客?」 振り返ると、ラムネを二本持った引きこもりのクラスメイトが立っていた。
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