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蒔かぬ種は生えぬ。
そんなことは当たり前で、蒔いてすらいないのだから花が咲くどころか芽だって出やしない。
じゃあ、この勝手に出ているのはなんだと言われたら、名前も知らないただの雑草だ。
「今度は何を植えたの?」
「さあ」
そうやっていつも適当に水をやっていることに何の意味があるのって続けたら、きっとぎゅっと口をつむって静かに怒ってしまう。だからこのやり取りはいつもここでぷっつりと終わるのだ。終わるというより、ただそれ以上は進まないし、進めないできないだけだ。
私と彼とはだいたいこんな感じで、変わらず過ごしてきた。
幼なじみと言うのは簡単で、ついでに偶々進学先の高校も大学も同じだった。さすがに学部は違っていたけれど。
土ばっかり入れた白かったプランターに、水をいつものようにあげている。
その姿は昔から変わらなくて、私は勝手に安心していた。こいつは何も変わらない、そして私も変わらない。この関係性も、変わらない。
そうやって勝手に安心していた。
「なんか芽がでてきたね」
「ああ」
本当は何の芽がでてきたのか気になった。気になったけれど、私はそれを聞いていいのか躊躇ってしまった。躊躇う理由などないはずなのに。
それを私が聞いていいものなのか自信が持てなかった。
「わあ、これは何ていう植物ですか?」
「ああ……これは……」
彼女は私たちのひと学年下で、そいつの後輩になるらしい。ゆくゆくは同じ研究室に入りたいと度々ここを訪れている。
当然ながら学部違いの私よりも彼女がいることの方が自然で、彼女とそいつとの会話の方が自然だった。
私とそいつが特別不自然ということは全くないのだけれど、形容しがたい何かを感じていた。
家も近くて、学校も同じで、部活も終わる時間は対して変わらないから、当たり前のように隣を歩いて家路についた。
大学生になってからは、中々そうはいかなかったけれど、都合が合えば一緒に帰ることだってあった。
だから私が勝手に変わらないと思っていた。
同じ学部なのだから、彼女が隣にいて、彼女と話していることは普通のことだと思っていた。
変わったことと言えば、あのプランターからちゃんと花が咲いたことと、腕組みをしながら歩くそいつと彼女を見たことくらいだろうか。
変わっていないことなんてなく、しっかりと変化は著しく望まないほどに。
「花、咲いたね」
「ああ」
蒔かぬ種は生えぬ。
何もしてこなかったのは私なのだから、これは当然の結実なんだ。
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