わたしはあなたの花を視る

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 初夏も近い季節に、玄関先に置いていたシクラメンの花が咲いた。わたしが生まれたころからうちで家政婦をしているしずこさんは、 「訪問者が見たら気味悪がるでしょう」  と、鉢をよそへ移動させておくようにわたしに指示し、少し曲がった腰を叩いて庭掃除の道具を手にすると、 「坊ちゃんの周りは植物が育ちますからね。雑草も例外ないってところが困るんですけど」  ぶつぶつ言いながら手ぬぐいを頭へ巻いて庭へ出て行った。  静子さんはわたしの能力の余波が関係することには容赦なくわたしを使う。苦笑いしていると、スマホが鳴った。  画面には日本有数の巨大組織であり、わたしのわたしの、一族のお得意先の名が表示されている。 「先生、ご無沙汰しております。よろしいですかな」  この老翁が猫なで声の電話をかけてくるとき決まって有無を言わせない類の仕事の話だ。 「本日はどういったご用命で」  電話の向こうで乾いた笑い声がした。
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