わたしはあなたの花を視る

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「その操作はうまくいったと」 「ええ、建前は」  藤崎は奥の柱の近くに座る若者を指さした。 「問題の社員です。若いし、ほかの社員とは雰囲気が違うでしょう」  二十歳に届かない風貌の彼は、画面を見つめたまま細く白い指をキーボードの上を走らせていた。袖から覗く手首は、少し力を入れて握ればぽきりと折れそうなほど細い。肩幅の小さい薄い体躯は、成長しきれていない少年のようだった。  横顔の彼が、ふいにこちらへ振り向いた。  目が合った。  彼は目を細め、口の端を上げ、整った歯と赤茶の歯茎を見せ、また画面へ向かった。  わずか数秒のことだった。  彼の目の奥は汚泥の深淵だった。  総認知した途端、腹の底が冷えた。意識が底なし沼に引きずり込まれそうになった。  人間の目ではない。生者の目でもない。  腹の底で未知の感覚が渦巻き暴れた。  逃げ出したい衝動に駆られる。  だが、これだけの機密と今までの道順を考えれば、結果を出さずに生きて出られるとは思えない。いざとなったら藤崎にわたしを抹消するよう、猫なで声の爺が言っているに決まっているのだ。 「彼はどう視えますか?」  藤崎に促されて、わたしは冷えた肉体に意識を戻した。息を吐き、平常心へ戻す。こういう時の所作は、実家の表の稼業に感謝だ。  わたしは彼の背後を注視した。  あるのは暗黒だった。
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