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こんな人間がこの世にいるわけがない。
「ばかな」
「どうしましたか」
藤崎の声は聞こえるが、振り向く余裕はない。
暗黒しか視えないこの現実を、どう解釈するか。
魂からの発芽は赤ん坊だって出ているのに、この事態をどう考えればいいのか。
「彼は、凡庸の判定と言いましたが、実際には無益でした」
と、藤崎が言った。
目を凝らして彼の背後を視続ける。ようやく、彼の背後の真っ暗な中に蠢くものを感知した。視えたといいたいが、感知だ。わたしの特異才能の範疇を超えた、けれど一般人よりは鋭い感覚で捉えたに過ぎない。悔しいが、今回は表稼業による修行で得た感覚がものをいうことになりそうだった。
データがもっとほしい。
わたしは藤崎へ顔を向けた。
「彼と話をさせてくれ」
「では、部屋を用意しましょう」
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