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その日から、わたしには夢ができた。
中学ではコーラス部に入り、発声を磨いた。
幼いころからピアノを習っていたし、音楽は好きだったが、“変な声”の自分が歌うなんてありえないと思っていた。
何も考えず咄嗟に出てしまう地声とは違う、歌の進行と盛り上がりに合わせコントロールした声を出す練習をすることで、かつて男子に付け込まれたような不安定で耳障りな響きが抜けていった。
水上くんに言われたとおり、高音域が自然に出るわたしの声は、うまく発声できるようになってみれば、コーラス全体の印象を形づくるソプラノとして重宝された。
驚くことに、水上くんとはコーラス部の体験入部で再会した。
「中学には軽音楽部がないから」とのことだった。
コーラス部に入る男子は珍しかったけれど、水上くんには不思議と似合って見えた。
実際、早くも声変わりを終えていた水上くんは、女子が多い部内で低音域の筆頭として、戦力になっているようだった。
飄々としているところは相変わらずで、練習前の部室ではいつも、学校には持ち込み禁止のはずの携帯音楽プレーヤーで、当たり前のように音楽を聴いている。
インディーズのバンドミュージックを好んで聴いているらしい水上くんが、中学生向けの合唱曲なんかを歌っていて楽しいのか、彼に相談されたわけでもないのにわたしは思い悩んだ。
こんな歌をうたわされるぐらいならコーラス部なんか辞めるよ――。そう言い出す日が来るんじゃないかと内心で恐れた。
そんな予想に反して、彼は毎日真面目に練習に来た。
わたしは帰り道、彼に少しでも楽しい時間を感じてもらおうと、彼の好むマニアックなバンドの話を乞い続けた。
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