夢一番

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 水上くんが転入してきてから、小学校でも中学でもクラスがいっしょになることはなかったので、クラスで彼はどんな立ち位置なのか見てみたいものだと、わたしはひそかに気になっていた。  それで、水上くんと同じクラスにいる親友を訪ねるふりをして、休み時間にはよく彼のクラスを覗きに行った。  窓枠にもたれて、六年のときによくわたしをからかってきた男子と談笑している姿を見て、あぁ水上くんも普通の男子だったんだなと少し拍子抜けしたのは、中学生活の色濃い思い出のひとつだ。  教室内で窓際の席になった冬の日は、水上くんのクラスの体育の時間を心待ちにしていた。  窓の向こうのグラウンドで体を動かす別のクラスの男子の群れの中に、放課後いっしょに歌をうたう馴染みの彼の姿を探した。  少し猫背になりながらトラックを走っている水上くんは、特段速くも遅くもなくて、それが良かった。  はぁはぁと吐き出される息の白さは、この遠さでは見えるはずもないのだけど、想像して脳内で付け足した。  まだまだ寒い季節だと思っていたのに、この日、春一番が駆け抜けたというニュースが、夕食のときにつけたテレビから流れた。  もうすぐ春が来る。そんな当たり前のことを考えてから、わたしはまた、寒空の下の水上くんを思った。
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