夢一番

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 先輩たちが引退する少し前、わたしが次期部長の候補となったときのことを思い出す。  転部してきた部員が多い中で一年春からの初期メンバーであり、ピアノを弾けるということもあって、みんなが賛成してくれているようだった。  わたしが抱いた、淡い夢の種を育ててくれたコーラス部は、わたしにとって温室の花園のような場所だ。  それをこれからは自分の手で作り上げていくことに、興味がないと言ったら嘘になる。  だけどそれは、かつてわたしに夢を授けてくれた水上くんこそがふさわしい人間なのではないだろうか。  そう思って、わたしは円になっていたメンバーの中で、向かいに座っていた水上くんの方を見た。  いつもどこか遠くを見ているような掴みどころのない水上くんと、めずらしく目が合った。 「じゃあ俺が副部長やるよ」  平淡な調子で、事も無げにそう言った水上くん。  それからわたしたちは同学年の部員や後輩たちをまとめて、コンサートや老人ホームの慰問などたくさんの行事を乗り越えてきた。  わたしたちが作ってきたこの場所で、彼の花はひらいただろうか。
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