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* ダメージは成功の知らせ *
***
どんなに大切に扱っても、形あるものいつかは壊れる。
バッグだって、ジャージだって、いつかは傷む。
頭では理解していても、傷みを見つけた時にテンションが下がるのは人の性ではないだろうか。
***
「あれ? マリ、どうしたの? 更衣室、戻らないの?」
「……サエ、どうしよう」
二年に進級し、体育の授業で行うバレーボールにも慣れてきた。
と同時に、自分の適性の有無も否応なしに気付く五月。
ついに悲劇が発生する。
「あちゃー、裾がほつれちゃったかー……」
レシーブを上手に取ることが出来ず、床を滑り続けること数知れず。
ついに遅れていたことが現実となってしまった。
「まあ、とりあえず今日の授業は終わったんだし。とりあえず、制服に着替えよ、ね?」
「……う、うん」
茫然自失な私の手を取り、サエはテキパキと更衣室に進んでいく。
相変わらず凹みまくりの私に向かって、サエは優しく声を掛けてくる。
「別に恥ずかしいことでもないよー。がんばった証拠なんだから!」
「……そうかなあ」
「そうだよー。それに、もしかしたら不良品だった可能性もあるしさ。あんまり気に病むことないよ」
「うーん……」
本当に不良品なら二年生に進級する前にほつれている気が……。
などと思いつつ、サエの優しさに感謝する気持ちよりもショックが激しくて、どうしても返事が上の空になってしまう。
そんな私の気持ちを見透かすように、サエは突拍子もない発言をする。
「んー。じゃあ、ジャージのダメージはきっと成功の知らせだね!」
「……へ?」
「だから、成功! 何か大成功する知らせだよ!」
キョトンとする私の顔を覗き込んで、サエはしたり顔をする。
そして、得意げに解説をスタートする。
「ジャージの裾がほつれたってことは、言い換えるとジャージの裾が綻んだということなんだよね。綻ぶって、花が開花した時にも使う言葉だよね?」
グイグイと語るサエに、しどろもどろになりつつ懸命に答える。
「確かにサエの言う通り、花が綻ぶって言葉あるにはあるけど……」
「でしょ! つまり、開花と綻びはワンセットなんだよ! やったじゃん、マリ!! きっと、才能開花の知らせだよ!」
バチーンと、効果音でも聞こえそうな決めポーズをとりながら言い切るサエの勢いに押されて、いつの間にか声を上げて笑っていた。
「ふっ……、なにそれー。無理やり過ぎー」
「そうかなー? 結構、いい線いってると思うんだけどなあ」
ケタケタと声を上げて笑う私に向けて、サエは不服な表情を浮かべている。
それもこれも私を元気付けるためと気付いているよ。
だからこそ、感謝は言葉にするよ。
「だけど、確かに。サエのように考えたら、少しはハッピーになれるかも」
どんなに大切に扱っても、形あるものいつかは壊れる。
バッグだって、ジャージだって、いつかは傷む。
頭では理解していても、傷みを見つけてしまえばテンションは下がる。
だけど、サエが言ってくれたように成功の知らせと気持ちを切り替えてみれば、必要以上に落ち込むことも減少していくかもしれない。
【Fin.】
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