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すると、まだかまだかと待つこともなく、次の日にはもう、あっさりと芽が出ていた。
まあ、予想していた通り、なんの変哲もない黄緑色の双葉の芽だ。
この様子では、あまりおもしろい結果にはなりそうもないが、どうやら順調には育ってくれそうである。
そんな風に楽観的な見方をして、その後、毎日せっせと水くれをしていた僕であるが……どうにもそれ以降の発育がよくない。
栄養が足りないのかと肥料を増やしてもみたが、多少芽が伸びただけでやはりそれ以上の成長は望めそうもないようだ。
いや、それどこれか日に日になんだか萎びてゆき、このままでは育つまでもなく枯れてしまいそうである。
栄養じゃないとすると、鉢で育ててるのが悪いのだろうか?
こうなったら仕方がない。僕は一縷の望みを託し、夜な夜な鉢を持って外へ出ると、人目につかないアパートの敷地の隅にこっそりそれを植えてみることにした。
深夜、空に墨を垂らしたような暗闇に紛れ、他の住人達に気づかれないよう足音を忍ばせながらアパートの裏手へ回ると、無雑作に雑草の生えたブロック塀の際を静かに掘り返し、鉢の土ごと種から出た芽をその穴へと植え替える……。
その際、なぜ芽があれ以上成長しなかったのか? その理由がなんとなくわかった。
まだ小さな芽だというのに、鉢の中はびっしりとその根で埋め尽くされていたのである。
おそらく、この素焼きの鉢では小さすぎたのだ。もっと広く根を張るための広い大地が必要だったのだろう。
だとすれば、僕の選んだこの判断もあながち間違いではなかったのではあるまいか?
はてさて、そうしてアパートの裏に植え替えた後、人目を忍んで再び水くれに精を出していると、思った通りに芽はぐんぐんと大きくなっていった。
朝、見る度にそれは大きくなっており、日に数センチは伸びているようだ。鉢で育てていた頃の発育不良がまるで嘘のようである。
あれよあれよと言う間に、その背丈は人間の大人と同じくらいの高さにまでなってしまった。
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