謎の種

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 そうか……そういうことだったのか……これはさっそく、明日の夜明け前に確かめてみよう……。  そんな結論に至ると、その日はいつもより早くベッドに入り、目覚ましをめいっぱいにかけて早起きを試みることにした。  そして、翌早朝、空と山の境が紫色から橙色に変わろうとしているその頃、僕は眠気眼を擦りながら、まだ暗いアパートの裏で謎の種から育った植物の前に立った。  しかし、僕はすぐにその眠気眼を大きく見開くこととなる……予想通りに、だが驚くべきことにも、本当にその花は咲いていたのだ。  葉や茎同様、まさにヒマワリのようにたいへん大きく、でも明るい黄色ではなくドギツイ赤紫色をした、白い斑点のあるなんとも不気味な花だ。  また、花弁とは他に(がく)だろうか? 花弁と重なるようにしてその外側にはノコギリ状の突起を縁に持つ黄緑色の紡錘形が並び、中心部の巨大な雄蕊(おしべ)雌蕊(めしべ)もなんだか触手のように長く伸びている……。  さらにその周囲には、朝の清々しい空気に混じって鼻腔を掠める、悪くいえば腐敗臭のような、だが、なぜだか癖になるような蠱惑めいた香りが充満している。  なんというか、その怪しげな花の姿と雰囲気に、僕は熱帯の密林に生息するという〝食虫植物〟を無意識に連想した。  あの、植物なのに昆虫達をおびき寄せて食べるという、なんとも摩訶不思議な珍しい生物だ。  もしかして、ここら辺の小鳥や猫がいなくなったのって、じつはこの植物が食べちゃたからだったりして……。  ……なーんてわけないか。  小さな虫ならまだしも、さすがに大きな鳥や猫が食べられるなんてことあるはずがない。  やはり、この花の麻薬的な匂いと妖艶な美しさに少々酔ってしまったのか?  図らずも僕は、そんなありえないバカげた妄想に捉われてしまった。 「…ハハハ…慣れない早起きなんなしたから、まだちょっと寝ぼけてるのかな?」  我ながらアホウな考えを抱いてしまう自分を独り自嘲しつつ、なおもその妖しげで珍妙な花を見上げ続ける僕だったが……。
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