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「おいで。一緒に行くよ」
その言葉に少し違和感を覚えた。お母さんが私を誘うときはいつも私の意思を確認していた。けれど今日はもう行くことが決まっているような、そんな感じで声をかけられた。今日は何も約束をしていないのに。
すぐに用意はできる。それを見てお母さんが先に家を出る。そこで気づく。ああ、今日があの日なんだな。
お母さんは先を歩く。私は黙ってついていく。丘の上に行く正しい道に入る直前、お母さんが振り返る。
「もう少し近くに」
そうしてまた歩き出す。私はお母さんのすぐ後ろを歩く。そうして何分歩いただろうか。開けた場所に出る。ここが上なのだろう。
その開けた場所の真ん中に一つ、大きな植物がある。そこの地面だけ少し持ち上がっている。幼木くらいの大きさがある。けれどそれは木ではない見た目をしている。そのてっぺんにつぼみが一つ。
お母さんはそのつぼみの外側を一枚はがして私に渡す。
「それを飲むとへその少し下くらいに渦巻き模様が出る。それが光ったらもう長くないから誰かに継ぎなさい」
そう言ってお母さんはつぼみを潰す。
「お前はまだひらかぬ、お前はまだひらかぬ、お前はまだひらかぬ」
そう言ってその植物の周りを回る。低い声で。言い聞かせるように。
そうして少し話す。
この丘は蛇でできている。蛇の頭があの少し盛り上がったところで、その上の植物の花がひらくとよくないことが起きると言われている。あのつぼみは毎日できる。だから毎日潰さなければいけない。そうして念のため言い聞かせる。ひらかぬと。蛇にそう言い聞かせる。そうして私たちもそうであると認識する。定義する。毎日毎日しなければならない。
どのくらい話しただろうか。話が終わった後いつの間にか握っていた手を開くと受け取ったはずのつぼみの外側は無く、周りにも落ちていなかった。無意識のうちに飲んだのだろう。
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