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1 侵入不可能、下北邸ガーデン
下北啓一郎(御年50歳)は自分の庭――若かりしころに購入した猫の額――を見渡し、満足げに何度もうなずいている。「いつ見てもほれぼれするな。これなら誰も俺の庭にちょっかいを出せんはずだ」
色とりどりに咲き誇る花を愛でながら、石をも噛み砕けそうな歯を見せて呵々大笑。「いいか、ロハの昼飯なんかありゃせんのだ」
下北氏の庭を一言で形容するなら、〈デスマッチ用のプロレスリング〉である。周囲は害獣よけの高圧電流柵で覆われ、それは高さ2マイルほどもある。さらにオリンピック級の盗人対策として、上部には鋭い有刺鉄線が何重にも巻いてあり、侵入者を徹底的に排除する気構えだ。
クレーン車などを持ちだす大がかりな覗き屋にももちろん対応しており、庭は縦横無尽に走る赤外線センサーで隙間なく防備されている。それに触れれば空襲警報並みのアラームが鳴り響き、リチウム4の半減期よりも早く警備員が駆けつける契約だ。
彼の庭は率直に言って、要塞であった。
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