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高校を卒業するまでの18年余りを、僕は桜の名所として知られる城下町で過ごした。
その街並みは、今もなお何処か歴史を感じさせる風情があり、毎年それなりに観光客もやって来ている。
僕が子供の頃通っていた幼稚園もその界隈が観光名所となっており、いくつもの昔ながらの家屋が見ることが出来る。すぐ傍には城跡に造られた公園もある。
僕は小さい頃からそんな町が大好きで、特にその公園の独特な雰囲気にはとても共感を覚えていた。
公園内には春になると沢山の桜の花を咲かせる一角があり、そこは町民から愛される桜の名所の一つにもなっている。
でも、僕がその公園で一番好きな場所は、そことは少し離れたところに一本だけある、大きな山桜の樹であった。
その山桜の樹は、樹齢二百年とも言われる、この街で一番古い桜の樹である。
この山桜の樹はもう殆どが枯かれてしまっていて、痛々しくも何本もの添木で支えられている。もう、何年も前から処分の噂すらある。
それでも毎年ほんの僅かではあるが、新芽を伸ばし葉を広げる一角が現れる。まれにそこに花も咲かせることもあるらしいのだが、何故か実際にその花を見たと言う人の話を聞いたことは無かった。
そのせいもあってなのか、その珍しい花弁は都市伝説?とまでは言えないまでも、地味に一部では逸話が語られていた。
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